たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
「どうしろっていうんだよ……」



思わずぼやく声が彼の口からもれる。

その視線の先にあるのは繊細に織り上げられたレースと光沢のあるシルク。これらが実際に形になるのはまだ先。それでも、最上の物を望む惟の為には手配する時間も十二分に欲しい。

そう思い、準備を始めていたはずなのに、なかなかその手が先に進まない。その理由が先日の千影の囁きにある。そのことに気がついた彼は、大きくため息をつくしかないようだった。



「ほんと、彼女にこんな思いを持っていたなんてね。惟に知られたら殺されるかな?」



自嘲気味な声がその場に響いていく。たしかに彼の婚約者である亜紀に対して好感は持っていた。

大学の時、偶然知り合った惟がそれこそ何年も思いを寄せていた相手。何枚か写真を見せてもらううちに、その笑顔に温かいものを感じるようになっていた。

そして、彼のデザインセンスを見込んだ惟がデザイナーとして一緒にやってくれないか、と声をかけてきた。そういう世界に興味を持っていたアンジーにとってこの提案は何よりの物。

その日以来、二人で同じものを目指してきていたはずだった。惟がとことん惚れ込んでいる相手の為にと立ちあげたブランド。そのメイン・デザイナーとしての地位を確固たるものとしている自分。この関係は崩れることがないと思っていた。だが、あの日——

想い人が16歳になるから日本に帰る。それを機に本社も移転するので、一緒に来てほしい。そう告げられ、活動の拠点を日本にしてすぐの頃。

惟がまだその時は名前だけの婚約者の亜紀を連れてきた。その時、彼は間違いなく亜紀本人に好意以上の感情を持ってしまった。だが、その場では気がついていなかった。しかし——
< 128 / 244 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop