たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
今の彼は、ただ、亜紀に早く会いたいという思いだけで店内に飛び込んでいく。しかし、そこに求める相手の姿がない。それだけではない。彼女を迎えに行ったはずのアンジーの姿も見えない。

どうしたのだろうと首を傾げる彼の横に、千影が当然のように近寄ってくる。そんな彼女を振り払いたいと思う惟だが、今までの生活で叩きこまれたレディーファーストが邪魔をするのだろう。なかなか振りほどくことができない。

それは、先ほど千影に対して吐いた辛辣な言葉が関係しているのだろう。そのことに自嘲の笑みを浮かべている惟。そんな彼に助け船を出そうとしているのだろう。ラ・メールのマスターが声をかけてくる。



「山県様。一條様でしたら、少し興奮されているようでしたので、お連れの方と別の場所に移動なさいました」


「本当? でも、どうして亜紀が? 彼女が興奮するような理由ってあったの?」



今の惟は、亜紀がどのような光景をみていたのか知っていない。だからこそ、首を傾げることしかできない。そんな彼に、マスターは静かに語り続けている。



「一條様は、山県様がそちらの方とご一緒のところをご覧になっておられます。どのように思われたのか、わたしが推察するのは失礼ですが、ひょっとするとご自分よりも相応しい方がいると思ってしまわれたのではないでしょうか」



惟が入ってくる前の亜紀の状態をマスターは知っている。だからこそ、推察と言いながらも確信をもった声で紡がれる言葉。それを耳にした惟は眉をひそめることしかできない。そんな彼の腕に絡みついてくる千影。その彼女を見たマスターの顔色が一気に変わっていく。
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