たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
「また、あなたですか? 一條様に恨みでもあるのですか? たしか、あの方に品位がないというようなことをおっしゃっておられましたが、あなたの方こそではないですか? そのようにあからさまに男性の腕に絡みつくなど、夜の商売をなさっているんでしょうね」



千影に浴びせられる言葉は間違いなく棘と毒が含まれている。そのことに気がついた彼女が顔を真っ赤にして抗議するが、そのようなものを聞き入れるはずがない。あくまでも彼女のことを無視するような形で、マスターは惟と話し続けている。



「一條様が不安になっていらっしゃいますよ。どうしてかと思いましたが、このような女がそばにいれば、当然でしょうね。山県様でしたら、このようなことはないと思っておりましたが?」



その言葉に惟はどう返事をすればいいのか分かっていない。彼は千影とマスターの顔を交互に見るだけ。そんな彼の耳に、マスターはそっと囁きかけている。



「できるだけ早く、仲直りなさった方がいいですよ。お連れの方は、一條様に好意をお持ちのようでしたからね。たしかに、一條様は聡明な方ですが、やはりまだ子供です。不安になれば、そばにいる別の方に心が揺れますよ」



彼の声に惟の表情が一気に険しくなっていく。そして、腕に絡みつく千影を無理に引き離した彼は、胸ポケットから携帯を取り出すと、亜紀の番号をプッシュする。

しかし、彼女がそれに応えることはなく、空しく呼び出し音だけが耳に響く。そのことに嫌な予感を覚えたのだろう。彼は急いで別の番号をプッシュする。



「どうしたんだ……どうして出ないんだ……アンジーは戻っていないのか? だったら、二人ともどこに行ったんだ……」
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