たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
惟を宥めるようなマスターの声が流れてくる。だが、それに対して惟は否定の色をみせるだけ。



「そう? でも、前にも忠告を受けていたんだよ。それなのに、こんな事態を招いてしまった。そのことに僕自身にも腹が立っているから。でも、何よりも今はその元凶の君の顔は見たくないわけ。南原、分かった?」



惟の言葉に、千影はガタガタと震えだし、その場に崩れ落ちるだけ。しかし、そんな彼女に彼が目を向けるはずもない。今の惟は亜紀の居場所を探したいという思いだけに駆られている。だからこそ、彼はその場を慌ただしく後にすることしかできないのだった。



◇◆◇◆◇



そして、どこか焦ったような表情を浮かべた惟が向かった先。それは皮肉にも彼が元いた場所であるともいえる。そう、ファエロアのオフィス内、アンジーが自分の絶対領域として他者が踏み込むことを拒否している場所。その部屋の扉を前にして、惟はグッと拳を握りしめていた。

ここに辿りつく前に、彼は駐車場も確認している。そこにアンジーの車があることは確認済み。となると、惟の中では疑問だけが膨らんでくる。


どうして彼は電話に出なかったのだ。


亜紀はまだ一緒にいるのだろうか。


それらの答えは扉の向こうにある。そのことを知っている惟は、軽く扉を叩いていた。だが、なかなか返事がかえってこない。

しかし、アンジーがここにいるのは間違いない。そう確信している惟は何度も扉を叩き続ける。

そうやって何度も扉を叩き続けるうちに、ようやく微かな声が部屋の中から聞こえてきていた。
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