たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
聞こえてくる声は誰よりも恋しい相手。普段であれば、喜んでそれに応えている。しかし、今日はどうしてもそうすることができない。

自分の感情をもてあました状態の亜紀は、泣きじゃくりながら首を振るだけ。そんな彼女の様子がわかっているのだろう。扉の向かうからは彼女を呼ぶ声が繰り返しかけられる。



「亜紀、お願いだから扉を開けて。渡したい物もあるんだから。それと話したいこともある」



惟の最後の言葉に、亜紀の肩がピクンと揺れている。今の彼女は物事を悪い方向にしか考えられないからだ。

そんな彼女にとって、惟からの話がいい内容だとは思えない。ましてや、彼女の首筋にはアンジーからつけられた痕がはっきりと残っている。

こんな状態で彼に会えない。会うことなど許されない。そう思う亜紀の口からは、彼の言葉を拒絶する声だけが飛び出してくる。



「会いたくない! 今は惟に会いたくないの!」



彼女の声は、惟には信じられないものなのだろう。扉の向うからは焦りを含んだ声が返ってくる。



「亜紀!? どうして、そんなことを言うの? どうして、会いたくないって? 僕が何かした? 亜紀を怒らせるようなことしたの? だったら、謝るから。だから、顔をみせて」


「嫌! 今は会いたくないの。会っちゃいけないの。そんなことも分かってくれないの?」



今の亜紀は、完全に自信をなくしてしまっている。今、惟に会えば思ってもいないことを口走る。そんな思いが彼女に彼と会うことを拒否させる。だが、拒絶された方にその思いが通じるはずもない。だからこそ、なんとかして扉を開こうと何度も叩き続けるだけ。



「亜紀! 頼むからここを開けて! どうして、会っちゃいけないって思うの? そのわけ、教えて」
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