たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
「普段のお嬢様や山県様でしたら問題ございません。しかし、お嬢様はお会いになりたくないとおっしゃっておられます。それにも関わらず、無理に要求を通そうとなさるのを見過ごすわけにはまいりません。本日は、このままお引き取りいただけませんでしょうか」



雅弥のその言葉に惟はグッと拳を握りしめている。たしかに、彼の言葉は間違っていない。ここは一條家であり、そこの令嬢である亜紀の言葉に執事である雅弥が従わないはずがない。

それでも、惟自身も譲れない思いというものがある。今の彼は亜紀に会いたい。その思いだけで動いているからだ。

しかし、それが無茶な要求であるということは、亜紀の態度からも一目瞭然。それでも諦めきれない惟は何とかして亜紀に会おうと必死になっている。

それを阻むかのように雅弥は惟の前に立ちふさがる。そのことが納得できない惟は、声を荒げて彼に言葉をぶつけるだけ。



「竹原、そんなことを君の一存で言っているのかい? たしかに、君はここの執事だ。そして、亜紀の世話役だということも認める。でも、そこまで言う権利があるとは思えないよ」


「そうでしょうか? わたしはお屋敷でのことを旦那様より全面的に任されております。そして、今はお嬢様のご意思もあります。それでも、お嬢様にお目にかかりたいとおっしゃられますか?」



雅弥の声は穏やかではあるが、惟の要求を認めないという意思も感じられる。そして、彼が一條家の当主である慎一から絶大な信頼を受けている執事である。そのことを思い出した惟は、これ以上逆らうことはできないということを感じていた。

なにしろ、執事は仕える主人の意思を代弁する存在でもあるからだ。となれば、ここは素直に引いた方がいい。そう思った惟は持っていた亜紀のカバンと携帯を雅弥に渡している。
< 167 / 244 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop