たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
そんな時である。明るいウェディング・マーチに被さるようにアンジーの声が流れてくる。



「ご観覧中の皆様。この場をお借りいたしましてご紹介いたします。ただ今、ステージ上を歩いております花嫁。その彼女を迎えに花婿が参っております。傍迷惑なくらいに幸せいっぱいなこの二人に盛大な拍手をお願いいたします」



その声と同時にピンスポットがステージ上に当てられる。その光を追って行った人々は互いに顔を見合わせると拍手を始めている。その様子に嫌なものを感じたのだろう。恐る恐る、そちらに視線をやった亜紀は思わず「ゲッ」と叫びだしそうになるのを必死になって抑えていた。


どうして、こんな風になってしまうのだろう。


今の彼女の中に溢れてくるのはそんな思いだけ。


このまま、この場から逃げ出してやろうか。


そんなことを本気で考えている彼女だが、ランウェイの位置は高く、逃げ出すことは不可能。というより、客席の人々の視線がどうみてもこの先にあることを期待しているようなもの。

そんな状況で逃げ出しても絶対に捕まる。そんなことを思う亜紀は歩く足を止めることができないことも分かっている。先ほどまでの笑顔が引きつったものになりながらも、彼女はゆっくりと先に進むだけ。



「アンジーの馬鹿。どうして、こんなことをするのよ」



思わず、口の中でアンジーに対する罵声が飛びだしている。だが、それをハッキリと外に出すことはできない。今の彼女はこの場の雰囲気を壊さないようにすることしかできないのだということを悟っている。しかし、これが居心地の悪いものであることも間違いない。
< 239 / 244 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop