たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
そう言うと、惟は亜紀たちを連れて、店の奥に入っていこうとする。そんな彼に「私はお茶汲みじゃありません!」と叫ぶ声。それを耳にした彼は、冷ややかとしか表現できない顔をする。



「南原、僕の言ったこと聞こえなかった? できるだけ早く持ってきて。ただし、手抜きは許さないよ」



そう告げる惟の姿は、それまで亜紀に見せていたものとはまるで違う。そのことを感じたのだろう。彼女は彼の顔を見上げるようにして「惟さん?」と呼びかけている。

その声に対して返ってくる表情は、先ほどまでとは違う甘くて柔らかいもの。こんなにいろいろな表情を見せられると戸惑ってしまう。そう言いたげに、彼女の顔が伏せられている。そんな亜紀にかけられるのは、蕩けそうなほど甘い声。



「亜紀ちゃん、どうかした? どこか具合でも悪いの?」


「そ、そんなこと、ありません……」


「よかった。あ、由紀子ちゃん、そっちの扉は開けないで。信用してないわけじゃないけど、そこには入れる人を選んでいるから」



由紀子が好奇心のままにあちこちの扉を開けようとしている。そのことに気がついた惟が笑いながら止めている。もっとも、その表情の奥にある黒いものを感じたのだろう。由紀子は軽く身震いをしながら、彼の言葉に頷いている。

そんな彼女に「物分かりのいい子って感じがいいよね」と笑う惟。そんな彼の姿に、亜紀はどこか複雑な表情を浮かべている。その姿に由紀子はピンとくるものがあったのだろう。亜紀のそばにスッと近付くと、「妬かないの」とだけ告げている。

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