たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
もっとも、その言葉の意味が亜紀にはわかっていない。彼女は訳が分からないというような表情でプイっと横を向くだけ。そんな亜紀の反応が面白いのだろう。由紀子はクスクス笑うと意味ありげな視線を惟に向けている。それを受け止めた彼は、極上ともいえる笑顔で応えるだけ。



「由紀子ちゃん、あまり亜紀ちゃんを苛めないでほしいな。ね、そうでしょう?」


「そんなつもりありませんよ? うん、私が亜紀を苛めるはずないわよね?」



二人からかわるがわるそう言われたことで、亜紀は目を白黒させている。その時、目的の場所についたのだろう。惟が真面目な顔で亜紀に声をかけてくる。



「亜紀ちゃん、入って。もう、気がついていると思うけど、ここが僕の仕事場」


「じゃあ、惟さんはファエロアの関係者なんですか?」


「うん。一応、代表している。でも、そんなに凄いことじゃないよね。別に僕がファエロアのデザインしているわけじゃないんだし」



あっさりとそう言われたことに、亜紀も由紀子もどう返していいのか分からない。一つのブランドの代表をしていることが『凄いことではない』という感覚が分からない。

たしかに、こういうファッションブランドはデザインが命だろう。だが、それを束ねる役目が代表のはず。そう言いたげな色が二人の顔には浮かんでいる。



「で、でも、惟さん……一つの企業の代表って、やっぱり凄いことだと思いますけど?」


「そうかな? 僕にすれば代表って雑用係だと思うんだけど? ほら、いろいろと細かいことの折衝や、何かあった時の対応まで。どっちかというと、庭師が庭園を手入れするみたいなことをしてると思ってるんだよね」

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