たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
「旦那様がお嬢様にお話があられるとのことです。いつものお時間にお迎えにあがりますので、帰る準備をしてお待ちいただければと思います」


「わかったわ。そういうことなら約束はしないようにする。でも、話って何だろう。竹原さんは聞いてるの?」



ここで雅弥が旦那様といっているのは、この屋敷の主人である一條慎一(イチジョウシンイチ)のこと。彼は亜紀の伯父にあたる人物であり、近日中に養子縁組をすることも決まっている。

このあたりの事情をまだ納得していない亜紀だが、抵抗しても無駄だということも悟っている。そのせいもあるのだろう。彼女は慎一とその息子であり、従兄にあたる拓実(タクミ)のことを『お父さん』『お兄ちゃん』と呼んでいる。

この部分も慣れることのできないところなのだが、少しずつでも馴染んでいかなければならない。そう思っている亜紀は、クローゼットにかけている白綾学園の制服に手を伸ばしながら、ため息をついていた。

俗にセレブ校と呼ばれるそこに行くことになるとは、思ってもいなかった。しかし、今の彼女が生活している一條家というところが半端ない。そのことを少しずつであるが理解し始めている亜紀は、無理矢理でも納得するしかない。

そして、有名デザイナーが手掛けたという、膝を隠す白いVネックのジャンパースカート。襟元とカフスに細くて綺麗な濃いブルーのラインがあしらわれたブラウス。どこか憧れの目で見ていた制服をまとった彼女も、傍目からみればお嬢様なのだろう。そのことがまだ信じられない彼女は、鏡を見ながら大きく息を吐くことしかできない。

< 6 / 244 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop