たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
甘い囁きが亜紀の耳をくすぐっていく。そこに含まれる響きに色気を感じたのだろう。亜紀の表情がどこか蕩けたようなものになっていく。



「惟さんの意地悪。そんなこと思ってないわ。私だって、会えるの嬉しいんだもの。でも、やっぱり気になるのよね」



同じ学生ならば学校で会うこともできるだろう。だが、惟と彼女の年の差は半端ではない。ましてや、惟はファエロアというブランドの代表という顔もある。そんな彼にこうやって迎えに来てもらう。そのことが贅沢なのではないかという思いをこの頃の亜紀は抱いているのだった。

そんな彼女の気持ちを察したのだろう。惟は柔らかな笑みを浮かべながら囁きかける。



「いつも言ってるよ。亜紀は気にしなくていいの。それに、約束したでしょう? あーちゃんを二度と一人にしないって」


「惟さん、それって反則。それ言われたら、私が我がまま言ってるみたいじゃない」



そう言うと、亜紀は拗ねたようにプイっと横を向いている。その姿に、彼女のご機嫌が斜めになったと思ったのだろう。少し不安気な表情を見せながら、惟はいつものように助手席の扉を開ける。だが、その日の彼女がそこに座る気配をみせることはないようだった。



「亜紀、どうかしたの? さっきのことで怒っているの?」


「そんなことない。あのね……今日は由紀子と会う約束しちゃったの。だから、今日の迎えはいらなかったの。でも、やっぱり、会えないの寂しいし……」



惟が忙しい時間を工面して、自分に付き合ってくれている。そのことを知っている亜紀の声はだんだんと小さくなっていく。そんな彼女の額に惟がそっとキスを落としていた。

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