たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
「そんなに気を使わなくてもいいのに」



訪問客がそう告げるのにも関わらず、一條家のメイドたちはあたふたとしている。それは相手が若くてイケメンだというのも関係しているだろう。

どこか色気のある表情で見つめられたことで、彼女たちは顔を赤くしている。そんなメイドたちの反応を楽しんでいるのか、一條家の当主である慎一は笑いながら相手に声をかけていた。



「惟(タモツ)君、あんまりメイドたちをからかうものじゃないよ」


「からかってなんていませんよ、慎一さん。そんな風に思われていたんですか?」



慎一の声に軽く反論してくる相手。仕立てのいいスーツを着こなし、爽やかな笑顔を振りまいている彼に太刀打ちできる相手がいるのだろうか。そんなことを思いながら、慎一は惟と呼んだ相手の顔をみつめていた。



「それはそうと、どういう風の吹きまわしだね。君がヨーロッパに行ったきり帰ってくる様子がないって玲子ちゃんが嘆いていたけど?」


「お母さんは心配性なんです。ちゃんと連絡は入れていたんですから。なにより、あちらの方が僕にはあっていたからですよ。それに、学校も向こうで卒業しましたしね」



ソファーに優雅に腰掛け、紅茶を手にしている姿は一幅の絵にもなるだろう。洗練されたといってもいい仕草は、間違いなく人の目を引く。その場で給仕の役をしているメイドの顔が赤くなるのも仕方がないことだろう。

もっとも惟はそのことを気にする様子もない。ただ相手に「ご苦労様」と声をかけると、紅茶に口をつける。その姿に声をかけられた方は、また一気に顔を赤くしているのだった。

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