たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
蝶々は黒く蠢く
その日、若者に人気のあるファッションブランド・ファエロアの店内は、いつもと違った空気が流れていた。たしかにまだ開店前。である以上、そこにいるのはスタッフだけ。そして、今の時間帯は、客を迎えるための準備で忙しいはず。

だというのに、その日のスタッフは一か所に固まって頭を寄せている。その彼らの目の前にあるのは、俗にいわれる写真週刊誌。その紙面を飾っている写真を目にしてため息だけが漏れているのだった。



「ねえ、これって惟様よね?」


「当り前じゃない。あの方を見間違えるなんてこと許されないでしょう」


「それはそうなんだけど……じゃあ、この横にいる女の子は?」


「あら、見たことある。この前、惟様が連れてきた女の子じゃない。あの時は二人いたけど、そのうちの白綾の制服着ていた方の子。でも、これってうちのドレスじゃない?」


「本当。でも、これってアンジー様がご自分で手掛けていらした一点物のドレスじゃないの? たしか、特別なクライアントのものだからって、現場の誰にも触らせなかったって」



一人の言葉に、その場にいた誰もが驚いたような声を上げている。ファエロアのメインデザイナーであるアンジーが一点物のドレスを作成する。これは今までにもあったこと。そのことは不思議ではない。だが、それがこうやって週刊誌を彩っている。そのことに彼らは不審感を抱くことしかできなかった。



「ねえ、どうなってるのよ。これがうちの一点物なのは間違いないわ。でも、それをこんな女の子が着てるなんてこと、あり得る? そりゃ、うちのターゲットは10代の女の子だけど……」

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