最後の夏休み Last Summer Days.
胸まで海に入った頃、背後で水を勢いよくかき分けて走ってくる音が聞こえる。



振り向いて見えた姿は、アタシの知らないヒト。



―――がっかりした。



奇跡が起こってカレシがアタシを迎えに来てくれたのかと思ったのに。



待ってたのに。



そう思いながら、アタシは海に沈んだ。



まるで石になったみたいに体が沈んでいく。



このまま海の底まで沈んで、そこに棲む魔物に食べられてしまいたい。



そうすれば、もうカレシを思い出して苦しくなることもないのに。



海面から離れていくアタシの意識がそこで途切れてしまう瞬間、力強く手をつかまれた。



そして明るい世界に引き戻される。



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