最後の夏休み Last Summer Days.
アタシは複雑な思いで、ここに立っていた。



小説家の通っていた、大学。



東京の郊外にある丘陵に建てられた大学は、見晴らしがよかった。



小説家の部屋が見えそうなくらい。



古びた校舎の一室の前でアタシは深呼吸をする。



湿った木の匂いがした。



「失礼します」



ノックをして開けた部屋には彼女がいた。



「栄川先生。お久しぶりです」



多くの本に埋もれてしまいそうな机の向こう側に立っていた。

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