最後の夏休み Last Summer Days.
「ねぇ、小説家」



雲の隙間から見える西日を浴びながら彼は振り返った。



「名前で呼んでよ。君もそのほうがいいだろ?」



アタシはベランダに立つ彼の隣に左手が見えないように並ぶ。



「名前なんていらない」



アタシはアタシの名前、嫌いだし。



「アタシはカニクリで、アナタは小説家。それだけでいい」



雨の上がった蒸し暑い潮風は、アタシが着ているLIZLISAのワンピースとシャワーを浴びてまだ乾ききらない金髪を揺らす。



「あっそ」



小説家は包帯を取った傷だらけのアタシの左手を見たのに何も言わなかった。



それがどうしてあるのか聞かずに。



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