最後の夏休み Last Summer Days.
「今がよければそれでいいってわけじゃない。



優しすぎたの。



四年も一緒に暮らしたのに、ただそばにいるだけでいいなんて。



現実はそんなに甘くないって自分で言ってたくせに。


―――カズヤね、浮気したの。



それが別れた理由じゃないけど、キッカケではあったかな。



その時に許してあげられてたら、今は彼と結婚してたかもしれない。



―――私、一回だけ妊娠したの。


だけど産めなかった。



お金もなかったし彼にはそんな余裕なかった。



だから産みたかったけど何も言わずに堕ろしたんだ。


そこまでしたのに裏切られたって思って、私もリスカしたの。



アナタもそうでしょう? カニクリ」



彼女に名乗ってもいないのにそう呼ばれて、胸が苦しくなった。



まるで小説家が呼んでいるような気がして、じわじわと涙があふれた。
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