ヴィーナスになった猫

10訓練飛行

10訓練飛行

 小型機に乗りこむまえ、保奈美はなおっちの姿が見えないので、ちょっと気になっていましたが、きっとどこかで遊んでいるのだろうと思い、そのまま離陸したのです。

保奈美の操縦する小型機は滑走路から離陸すると、左旋回をしながら大空に向かって上昇し続けます。

上空の雲がどんどん近づいてきました。雲を突きぬけたところで機体を水平飛行に移すと、しばらくの間は安定した飛行が続きました。

 遠くの山並みを眺めていた保奈美が、何気なくミラーをのぞいておもわず叫びました。

「あーっ、なおっち、どうしてこんなところにいるのー!」

保奈美が後ろをふり向くと、後部座席に居すわったなおっちが珍しそうに窓の外の風景を眺めています。

「いつ乗ったのー、なおっち、座席から落ちないでよー」

保奈美はそのまま飛行を続けることにしました。

左旋回をすると遠くに山並みが続き、右旋回をすると窓の外に青い海が広がります。なおっちは右に左に移り変わる景色をうれしそうに眺めています。

やがて保奈美の操縦する小型飛行機は、陸地から離れて海に向かいました。

しばらく行くと、海上に大きな船の航跡が見えてきました。保奈美は左旋回をしながら少しずつ高度を下げます。

 最初は小さく見えていた船が、どんどん大きくなってきました。

それは大きな大きな客船でした。きっと世界一周の旅の途中なのでしょう。甲板の上から大勢の人たちが手を振っています。なおっちは窓枠に手をかけて、物珍しそうにその様子を見つめていました。

 客船から離れ、保奈美は機首を南に向け、いつも訓練飛行に使う離島をめざして飛び続けます。やがて前方の白く輝く水平線上に、黒い影が現れました。

 「なおっち、よく見ていてよー。島の周りを3回左旋回で回るからねー」

保奈美の声が聞こえたのか、なおっちは左の窓に手をかけて、移り変わる外の景色を見ています。

 小型機は爆音をたてながら、ゆっくりと島の周囲を旋回しました。島の周りの砂浜には白い波が何度も何度も現れては消えています。



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