ヴィーナスになった猫

7緊急停止

7緊急停止

 やがて、最初の3人の乗客が小型飛行機に乗りこみ、離陸の準備が終わると、小型飛行機は爆音を残して大空に消えて行きました。

残りの3人の乗客も、達也から説明を受けたあと、一人ずつ達也の操縦する小型飛行機に乗り込みました。

エンジンの音がひびきわたり、小型飛行機はスポットを出て誘導路までタキシング(走行)し、滑走路の手前で停止しました。

3人の乗客はきんちょうのおももちで離陸の瞬間を待っています。

達也がマイクのプレストーク・ボタンを押して交信を始めました。

「レディオ管制、JA1021です。離陸準備完了しました。左旋回で出発し、高度800メートルまで上昇します」

「JA1021、風は120方向から6メートルです。ランウエイ イズ クリアー(滑走路に障害物はありません)。8キロメートルの外で通報してください」

 いよいよ離陸開始だ。達也はパワーを最大に上げ、滑走を開始しました。小型機はどんどんスピードを上げています。

その時です。滑走路の前方になにか2つの影が飛びこんできました。

「あーっ、あれはなんだ!」

乗客の一人が叫び声を上げました。

見ると、なおっちの後をグレーの大きな猫が追っかけているのです。

「あぶない」

達也はとっさにスロットルレバーを下げ、フットブレーキをかけました。

 ギ、ギ、ギ、ギー

するどい音がして、小型機は減速を始めました。

その音におどろいたのか、グレーの大きな猫は、なおっちと反対の方向に走っていきます。

そのようすをスポットから見ていた保奈美と2人の整備士が走って来ました。

「なおっち、こっちよ、こっち」

保奈美の声を耳にしたなおっちは、保奈美の胸に飛びこんで来ました。

なおっちは保奈美の腕の中でぶるぶるとふるえています。

達也の操縦する小型飛行機は、滑走路の先端から約5メートルほど手前で、ようやく停止しました。

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