Jimmy




臭いしさっさと帰ってお風呂入ろ。

そそくさと帰り支度をしていたつもりでも

どうやらあたしはトロいようで

先輩も同期もみんな帰ってしまったらしい。

道場の鍵を閉めながら

ぼーっと自転車置き場に向かっていると

「ねえ」

と聞き覚えのある声に引き止められた。

誰やねんはよ帰りや。

なんて思ったけど言えへんから

無言で振り返ると

同じ剣道部の同期

藤岡健(フジオカタケル)が立っていた。

「タケ帰ったんちゃーったん?」

「…まあ」

なんその微妙なリアクション。

「どしたん?」

さほど背の高くない彼は痩せ型で

どっかのお寺の小僧みたい。

人見知りで自己主張も弱い彼とは

最近になってやっと

普通に話せるようになったばかり。

正直呼び止められる意味はわからない。


「先輩とかは?」

「もー帰った」

「なんでタケおるん?」

「教室、忘れ物」

慣れ始めたけど単語だけで会話って

なんかちょっと寂しいわ。

「追いかけへんの?」

そう尋ねればこくんと頷く。

うーん、仕草が女子力高いわ。

タケの様子から頭を

フル回転させて考えた結果

「電車乗り遅れたん?」

再度タケがこくんと頷く。

イケメンでもなんでもないけど

こいつなんかかわええわ。



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