何故、泣くのだ。


知らぬ間にまた、溜め息が吐き出される。

期待していたのかもしれない。ほんの少し、
本当はほんの少しでも、私を気にかけて
くれているのではないかと。無駄なことだと
わかっていた。

それでも少しだけ、期待してしまうのだ。

ふと見上げた階段の最上階は、高かった。
あそこから飛び降りたら死ねるだろう。
私が死んだらほんの少しだけでも、
悲しんでくれるのではないかと考える。

こんなことにさえ、希望を抱いてしまう。


私は静かに立ち上がり、階段を上り始める。
カン、カン、と音をたてながら。

最上階のスペースには、鍵が掛かっていて
入れなかったから、その下の階にすることに
した。ここからでも、確実に死ねるだろう。

死ぬ間際に、人は何をするのだろうかと
考えているとふと、スペースの端に置かれて
いる腐りかけの段ボールに気がついた。

少し驚いた。
こんなところにも、猫を捨てるのかと。
一匹の痩せこけた猫が入っていた。
薄汚れた白の子猫だったが、死にかけていた。

本当に死ぬところなのだろう。私を見上げる
眼が、閉じかかっていた。
自分勝手だ。わかっている。

けれど私は、子猫を抱き上げた。わずかに
眼が開かれる。私にすがる子猫が無性に、
愛しかった。私が助けてくれると思って
いるのだろうか。私は今から、この子を、


殺そうとしてあるのに。

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