何故、泣くのだ。


……………


…………………

……………………ぺちょ。


…………ん?なんだ??
頬を何かが掠める。掠める?違う。
舐めている。何かが私の頬を舐めている。

鼻をツンと土の臭いが突つき、
私は、ゆっくりと重く怠い瞼を持ち上げた。



私を覗き込む大きなボタンのような目。
細かく、ピクピク動く白いふさふさした三角。
小さくてちょこん、と其処に存在する桃色。
私の頬を擽る凧糸のような何か。
赤くて、濡れている小さな何か。


……………………っっっ?!?!

私は、驚きのあまりかなりの勢いで起き上がった。私の顔を覗き込んでいたソイツは、フーッと威嚇しながら慌てて後ずさる。


猫だ!あの子猫だ!!
毛並みは飛び降りた時より明らかに艶やかで、
薄汚れてなんかいなかった。真っ白な雪みたいだった。でも、生きていた!!良かった!


……ん。??

生きていた?


嘘だ。そんなはずがない。
あの時、確かに私と、私の目の前に戻ってきてちょこんと律儀に座るこの子猫は、
確かにあの階段から私に抱えられて飛び降りた。覚えている。

やはり、あんな高いところから落ちれば、
外傷は無くても死んでしまうよな。


けれど、



今のこの風景を見て、
一体誰が天国といえようか。ここはまるで……








森だ。







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