何故、泣くのだ。

天国というのは、森なのだろうか。
はたまた、
ここは天国ではなくて、地獄なのだろうか。

わからん、なぜこんなにも懐かしい匂いが
するのだろうか。


雨で湿った土の匂い。

杉か何かの少し花に似た、
鼻にスンとくる匂い。

体中にまとわりつく、
くすぐったいそよ風。

「あの世」というのは、こんなにも現実味が
あるのだろうか。

目の前にいる子猫を見つめながら必死に
考えていると何処からか、人の声がした。
どういう訳か、嫌な予感がした。
胸騒ぎがする。

「不味い……っ」

私は、咄嗟に子猫を抱きかかえると
少し山肌を登ったところにある茂みに
飛び込んだ。

そして、ほんの少しだけ期待を込めて
何も伝わるはずの無い子猫に向かって口に人差し指を当てて、静かにするように頼む。

すると子猫は、少し耳をピクピクさせて人の声のする方へ視線をやる。
そして、私の腕のなかから抜け出すと、地面に突っ伏し、人の声がする方を睨み続けた。

わかってくれたのだ、きっと。
ここで音をたてれば面倒なことになることを
察してくれたのだ。
< 9 / 55 >

この作品をシェア

pagetop