〖短編〗アオゾラ。―101ページの思い出―
それを聞いたときの、絶望感。
若年性アルツハイマーとは、最終的になにもかもすべて忘れてしまう恐ろしい病気だ。
すべて忘れてしまう恐怖。
それは、とてつもないものだった。
(だから、歌の歌詞を…)
そう考えたとき、真っ先に思いついたのは先輩のことだった。
(わたしは先輩のことも、この恋も、トキメキも忘れてしまうの…?)
しばらくわたしは、放心状態になるしかなかった。
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───…
「符和、そんなに落ち込まないで。
大丈夫、ほとんどなにも忘れない人もいるそうよ。
符和は元々記憶力いいんだから、きっと…」
「そうだぞ符和。
アルツハイマーなんかに負けるな!」
「ねーちゃん、おれらのこと忘れないで!!」
…こんな家族までも、忘れてしまうと言うのか。
こんな、暖かい家族ですらも。
そう思ってみんなの顔を見たとき気付いたんだ。
皆の方が、泣きそうな顔をしていることに。
皆だって、忘れられるのがいいわけじゃない。
忘れる側だってツラいけど、忘れられる側はもっとつらいんだ。
だったら、わたしがめそめそしてちゃいけない。
わたしは自分を奮い立たせ、言った。
「そうだよね!!
わたし、絶対負けない!
皆のこと絶対忘れない!!!
治療、がんばるよ!!」
「よくいった。
符和、苦しいのはオマエだけじゃないからな!」
「がんばるのよ、符和!!」
「ねーちゃん、オレにできることあったら言って!!」
「皆…ありがとう。」
病院から出たところで、皆が涙をこらえて笑いあった。