キケンな恋心
その夜



哲司が帰宅した。
「ただいま。つっかれたぁー!」


哲司は鞄をソファーに、投げ置くと、自分もネクタイを緩めながら、ドカッと座った。


沙也加は「おかえりなさい」と言いながら、哲司の背広をハンガーに掛けた。


「全く、最近の新人は競争心が無くって参ったよ。もっと貪欲に仕事を進めて顧客を取れ!って感じだな」



哲司の話を聞きながら、沙也加は金曜日にヒロトに会える事で頭がいっぱいだった。



「ねぇ?今週の金曜日、またママ友とご飯食べに行ってもいい?」



「あぁ。構わないよ」


哲司は、沙也加の話には興味を示さず、
「なぁ、後輩の笹塚、覚えてるか?」
と、部屋着に着替えながら沙也加に聞いた。



「うん。前に一度、ウチにいらした方よね?」



「あぁ。アイツさぁ、離婚したんだってよ」



「えっ?なんで?」



「アイツ、バカでさぁ。同じ部署の田中って女の子と浮気してたのが、奥さんにバレたんだとよ。バカだよな。銀行員は離婚なんて出世の命取りなのにさ」



「そ、そうなんだ......」
沙也加はドキッとしながら、哲司の夜食の支度をしていた。



「俺は、幸せだよ」



「えっ?」



「だって俺には、沙也加という妻がいてさ」
そう言って、哲司は沙也加の後ろからそっと抱きついた。



「......ちょ、ちょっと......ご飯作れない......」
沙也加の心は、猛烈に痛んだ......



......ごめん、ごめんなさい......



そう心の中で叫んでいた。





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