御劔 光の風3
やがて遠くから呼ぶ声が聞こえ、二人は立ち上がって手を振りながら声の方へと駈けていった。

背中で遠ざかっていく二人の気配を感じる、やわらかい風がマチェリラの頬を撫で優しい時間の余韻に浸らせてくれた。

ゆっくりだが瞬きも出来る。

身体の力も戻ったようで、いつのまにかマチェリラは人間の姿になっていた。

子供が笑う無邪気な声が風に乗ってマチェリラの耳に届いてくる。

不思議とそれだけで笑みがこぼれた。

くすくすと少しだけ声をだして笑う。

こんなに穏やかな時間を過ごしたのはいつぶりだろうか、まるで遠い昔のことを思い出しているようだ。

久しぶりに笑った気がする。

笑顔は次第に潤いを帯びて涙を誘い、マチェリラの頬が濡れるのに時間はかからなかった。

消化しきれなかった叫びが涙と共に吐き出されていく。

小さい子供のようにマチェリラは大きな声をあげながら泣いた。

ちいさな手が癒してくれた傷が熱い、ぬくもりが余計に涙を誘いマチェリラは強く自分自身を抱きしめた。

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