御劔 光の風3
生かすことと断つこと、正反対のことをほぼ同時に体験し心が大きく震える。

差し出される手は殺めるだけではないのだと幼子に教えられ安心したなんて、生きる世の情けに涙が止まらなかった。

そして同時に生かされたことへの絶望も感じていたのだ。

この先、何も知らない誰の頼りも無い世界で過去を抱えていかねばならない、足元に広がる道が過酷なものに感じる。

退路は断たれ目の前にある大きな壁を見つめているような気分だった。

例えそこに小さな扉があったとしても罠としか考えられない。

戦えと、本来の自分を取り戻せと幼子は教えてくれたのだろうか。

時間が経つにつれマチェリラはそう考えるようになっていった。

生かされたのなら、意味があるのだと。

「それから人の姿で過ごしてきたわ。でも時間が経つにつれ私の身体はこの世界の人間より老いる速度がかなり遅いことに気付いた。」

既に力のせいか存在感からか、宗教の象徴として扱われるようになっていたマチェリラは、身体を隠し意識体だけで姿を変え、名前を変えて何回も人生を繰り返していた。

この世界に竜は存在しない、彼女が生きていくにはこの方法しかなかった。

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