御劔 光の風3
憤りや虚無感を抱えたまま配属されたが、やはりカルサと接していてもそれが無くなることはなかった。

それどころかカルサに対する不信感が生まれていることに気付いたのだ。

それがどうしてかなんて今の自分には分からない、しかし確実に大きくなっているようで憤りが強くなっていった。

「…まずいよな。」

自分でもよくない方向に進んでいることは分かっている。

強い憤りを拳に込めてエプレットは柱に思いきり打ちつけた。

痛いのは自分の手、柱には血も跡もつかないように手には布を巻き付けている。

そこまで理性が働いていても吐き出すことを選んでしまった時点で自身の危うさを痛感していた。

「くっそ…。」

その様子を千羅が心配そうに見ていることもエプレットは気付いていないだろう。

彼はいろんな意味でまだ若かった、そしてそれがナータックの期待した部分でもあるが彼を導ける人物はいない。

落ち着きを取り戻せないまま自室に帰るエプレットを見送り、千羅はカルサの許へ足を運んだ。

「皇子。」

何の合図も無しにカルサの前に現れるのは慣れたものだ、カルサは視線だけ千羅に向けるとまた手元にある仕事に向き合った。

「早朝に出発します。」

向かう先は総本山オフカルス、本来であればカルサが行く予定だった場所だ。

カルサは素早く処理を済ませて冊子を閉じた。

「そうか。」

顔を上げたカルサには申し訳ない気持ちがにじみ出ている。

< 248 / 729 >

この作品をシェア

pagetop