御劔 光の風3
リュナは腕を振って懸命に民の部屋に向かって走る、この廊下のつきあたりを曲がれば民の部屋へと続く廊下に入るのだ。

いくつもある扉をすべて兵士たちが盾となり守っていた。中に見覚えのある人物がいることに気付いて名前を叫ぶ。

「千羅さん!?」

誰よりも早く誰よりも確実に魔物を倒していく千羅は合間を縫ってリュナに指示を飛ばす。

「中へ!」

リュナは頷き戦場を走りぬけ、扉を開いて急いで中に入った。

部屋の中は不安に満ちていた。人々は救いを求め子供は泣き叫び混乱している、聖が張ったはずのこの部屋の結界は破られていたのだ。

リュナは辺りを見回しカルサを探す。小さい声でカルサの名前を何回も呟いた。

「落ち着け!!」

広い部屋中に響く程の大きな声が人々の動きを止めた。誰もが声の主へと目を向ける、それはリュナも同じだった。声の主は彼女が探していたもの。

「私はこの国の王、カルサ・トルナス。今から私の力でこの部屋に結界を張る。」

上に立つ者としての自覚は幼い頃よりずっと意識していた。

何処にいてもどのような状況に陥っても自分は国王であることを皆に知らしめなければいけないのだと姿勢を正してきたのだ。

人とは違う空気を纏わなくてはいけない、特別な人物であるということを物言わずして感じさせなければいけないとずっと意識してきた。それが今もこうして役に立つ。

低く力ある声で皆に聞き取れるほどの速度で言葉を発していく、その時もこの身体から放つ空気は一回りも二回りも自分を大きく見せなくてはいけない。

それが上に立つ者の威厳というものだと教えられた。

混乱していた民の部屋はたちまちに落ち着きを取り戻し、カルサからの威圧感によって誰もが恐怖を忘れていた。

彼らの持つ感覚すべてが目の前にいる国王に集中している。

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