御劔　光の風３
Ⅱ-Ⅵ 言葉の意味
それはどこよりも静かで、どこよりも穏やかな時間が流れる場所だった。

かつてカルサが封縛された時、まるで祈るようにその身を捧げた場所がそこだった。今は違う人がそこに横たわり眠っている。

あの時とは違う、完全に時が止まってしまった人が眠っているのだ。

カルサを迎えたのはあの時と同じ様に、決して祭壇には上らず下で見守り続けているラファル。

「ラファル、ありがとう。」

感謝の気持ちを伝えると同時に抱きしめたラファルは心地よい温かさで心を落ち着かせてくれた。

初めて来る訳じゃないがやはり向き合うとなるとそれなりの覚悟が必要なのだと認めよう、意を決して祭壇へ向かい階段を上ってようやく彼女の許に辿り着いた。

彼女を美しいと思ったことはあっただろうか。

「ナル。」

祭壇の台座の上、かつてカルサが眠っていた場所にナルは横たわっていた。呼びかけても答えない、彼女の呼吸も、鼓動も全て止まって深い眠りに身を捧げてしまっている。

カルサは震える手を伸ばして彼女の頬に触れた。冷たい身体、ナルはもう。

「死んだのか。」

カルサの声が大聖堂の中で悲しく響いた。

「皇子。」

後方から千羅の声がしてナルとの距離を縮めようと屈みかけていた身体を起こす。

「ナル様の部屋に皇子宛の手紙がありました。」

瑛琳の言葉に反応し、そこでようやくカルサは振り返った。千羅と瑛琳の姿を確認すると瑛琳はすぐ傍まで来ていたようだ。

差し出していた手紙を黙って受け取り、そのままナルの方に視線を送った。千羅と瑛琳は一礼をして姿を消す。

カルサはゆっくりと手紙を開きその中身を読み始めた。

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