御劔 光の風3
カルサはハワードと睨み合ったまま中々口を開こうとしなかった。誰一人として言葉を発せず、沈黙という静かな戦いが生まれる。

この戦いで最初に剣を振り下ろす役はカルサ以外にいなかった。

「死にたいのか?」

冷たい目で探るように睨みを利かせ沈黙を破ったのはカルサだ。

「ただ守りたいだけだ。」

ハワードも短く答える。

「この国をか?」

嘲笑うようにカルサは吐き捨てた。特殊な力を持たない人間にとっては雲の上で起こっている出来事にすぎない。何をどうしても圧倒的な力の前には術はないのだ。それは圧倒的な力を持つカルサには分かりきった事だと態度で吐き捨てる。

「この手で救える者を守るだけだ。」

そう答えハワードは両手をすくうような形にして胸の辺りにおいた。視線は手の中に向けられ、それ以上の言葉を発しようとはしない。まだ続きがあるだろうハワードの答えにカルサは怪訝な顔をした。

「それが始まりだろう?」

その言葉にカルサの目は大きく開く。

伝わった、ハワードは心の中で確信した。

それは王位を継いだばかりの二人に告げた言葉。そしてこれからの支えにした言葉だったのだ。

国という大きなものを守ろうとすれば、小さな両手からこぼれ落ちてしまう物は決して少なくはない。目の前にある大切なものを守る、守りたい。その気持ちの延長線上に国は存在する。

多くの物を見て、多くの物を聞く、自分で救える物を広げていけばそれはいつか国となる。ただ全力で守れるものを守る事が大切なのだと、それが始まりだった。

幼くして両親を亡くし国を支えることになった二人の殿下にハワードが贈った言葉だ。

「カルサ。」

ハワードの声にカルサは目を閉じた。やがてゆっくりと目蓋を開き、改めてハワードと向かい合う。

その目の強さも思いも、何も変わらないとカルサは態度で示していた。

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