御劔 光の風3
「お前に言うべき事は何もない。」

「カルサ!」

変わらない低く冷たい声が響く。貴未は異論の声をカルサの名を叫ぶことで示したが聞き流されてしまった。

「ハワード、俺からは以上だ。」

言葉が終わると同時にカルサは視線を外し扉へと歩きだす。

「ちょっ…おい、カルサ!」

貴未の叫びに反応する事もなく、そのままカルサは部屋から出ていってしまった。後ろ手に投げ出され力なく閉じる扉の音が妙に響いたのは何故だろう。

音が静まるとハワードは静かに口を開いた。

「貴未、話してくれ。あの子が抱えている、話す必要の無い事を。」

空気の流れを変えたのはハワードの一言だった。扉を見つめたままの貴未は促されるように振り向くが、その表情は話す事を躊躇っている。

本人が言いたくないことを、自分が話してしまっていいのかと不安になっているのだ。

「構わない、あの子は許可を出していった。」

「カルサが?」

「私をハワードと呼んだだろう?」

そういえばと貴未は表情で答えた。ハワードに気付かされたカルサの変化は、貴未にとって些細なものだった。しかし二人にとっては大きく意味の有る事。

「職位ではなく名を呼んだという事は権力を持ってしないという事だ。好きにしろ、ただし自分からは言わない。そう言っていた。」

俺からは以上だ。

カルサの言葉が甦る。貴未は納得したような出来ていないような、どうにも不思議な気分だった。しかし、カルサがハワードに何かメッセージを残したのは確かなようだ。

伝えていいのだろう、きっと。しかし、どこまでを?

判断を仰げる人はいない、自分の感覚に頼る以外なかった。話していく中で自分で考えていくしかないのだ、貴未は長い息を吐くと腹を括ってハワードに向かい合う。

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