御劔 光の風3
そして自分たちの父親が偉大なる守麗王だったという事にカルサも異論はなかった。確かに彼は自分にとって誇りだったのだ。

でもそれは全て過去のこと。

「今の守麗王は玲蘭華だからな。」

それも紛れもない事実、カルサは現状を淡々と口にしているだけだった。

この現実を受け入れるまでの抵抗感はあまりに大きすぎたが確かにそれを乗り越えている。

もう拳を強く握ることもない。

「貴方が冷静に物を言えるようになったのは…時の流れを感じさせますね。」

テスタの声が心地よくカルサの中に響いていく。人は過去を背負っていくものだが、一体どれほどの月日を背負い続けてきただろう。

「テスタでも時間の流れを感じるのか?」

カルサに珍しく少し疑うように笑ってみせた。

テスタは様々な次元、世界、国への扉を集めたここ、界の扉の番人。

無数の時間の中をずっと生き続け、過去も現在も何通りもの時間を過ごしてきた。気が遠くなるような無数の時間に囲まれ、時の流れの感覚がなくなったと以前テスタが話していたことをカルサは覚えていたのだ。

「ときどき顔を見せる貴方の姿の成長が時の流れを知らせてくれます。」

太古の時代、まだカルサトルナスであった頃から度々テスタの所に遊びにいっていた。

オフカルスの宮殿内にある部屋、それは限られたものしか入れない場所に最初の扉であるオフカルスの界の扉があった。

そこから繋がる界の扉の間にこっそり訪れてはよく勝手にいなくなるなとジンロたちに怒られたものだ。

あの頃からテスタは年を取っておらず、何の変化もない。

「扉も増えたな。それでも時間が分かるんじゃないのか?」

「そうですね。増えもすれば減りもする、変化は確かにありましたね。」

穏やかで落ち着いた物言いはカルサの気持ちを過去へ振り向かせるのに効果的だった。だからだろう、いろんな事を思い出して仕方がない。

テスタはあの頃カルサの周りにいた大人の一人だったから。

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