御劔 光の風3
ふと懐かしい香が鼻の頭をかすめ一瞬にして色んな事を思い出させる、記憶も同じようなものだろうか。

顔を見るだけで何かを思い出し、話をしていくうちに広く深く様々な出来事を思い出していく。

それは会話だったり、景色だったり、ただの一言の場合もある。

「しかし…どれだけ長けていても貴方はまだ幼かった。背も低く、手も小さい。その記憶は根強く私たちに残り、今の貴方を見てもそれは変わりません。」

テスタの表情は切なくて、しかしその表情は他の誰かでも見た事があった。

どこか頭に残る記憶、その正体に気付いたときカルサは顔にだしてしまった。

それは何度も見た表情、いや違う、何度もさせてしまった表情だと気付いた。

ナルもハワードも、ジンロも沙更陣もマチェリラもシャーレスタンも。そして千羅にもさせてしまった表情だった。

諦めにも似た愁いを帯びた瞳にその表情もかげる。

「…俺を憐れんでいるのか?」

「…いいえ。」

優しく首を横に振る仕草でさえ慰めの様な気がしてカルサは目を逸らした。

意地を張って一人で幕を閉じることが周りに迷惑をかけることも知っている。

だから多くの人と関わっていく中で協力していく事を少しずつ覚えていったのだ。

こうして仲間を連れていくことも、国を出た事も大きな進歩だと自分ではそう思っていたのにどうしてまだそんな表情をさせてしまうのだろう。

まだ独りよがりだというのか。

「…俺を愚かだと思うか?」

低く尋ねるカルサの横でテスタはゆっくりと首を横に振った。

まるでカルサが今考えている事を全て見透かしたかのような素振り、いや、実際に見透かしているのだろう。

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