御劔 光の風3
「皇子。」

「でも不思議なもので…時が経てばその恐怖は薄れていく。全てが嫌になって、もうこれしかないと剣を取れるほどになった時にお前たちが現れたんだ。…その考えは認めないと。」

「…当たり前です。」

「そこからはもう最悪だったな。…国は度々魔物に襲われるようになるし、力はどんどん俺の所に集まってくる。失った物も数えきれない。聞こえもしない歯車のかみ合う音が耳について荒れた時もあった。」

目を閉じれば鮮明に思い出される逃げ出したくなるような現実。

どこから数えればいいのかも分からないが失った物は多かった、いや、多すぎた。

「リュナとの出会いが用意された運命なのかもしれない。でも二人で決めたんだ…それを幸福として受け入れようと。」

左の腰元に装備された剣、そこに括りつけているのは編み込んだ紐で作られた装飾品である。

リュナの風魔法が編み込まれた大切な贈り物だ。

それに風魔法の紐に触れてカルサは目を閉じた。

思い出されるリュナの声や仕草、離れていても感じる彼女の思いに胸を熱くする。

「ここから先、終わりに向かうのであれば未練は残さないようにしないと。」

そう言うとカルサは一歩踏み出し、瑛琳の手を引くなり彼女を抱きしめた。

あまりに突然の出来事に瑛琳を始め千羅も貴未も恥ずかしくて顔を赤くする。

「お、皇子…!?」

宙に浮いた手を動かしながら瑛琳は慌てた。

さらにカルサは横にいた千羅の手も引いて二人を同時に抱きしめる形をとる。

「この命、尽きる時まで。運命にあがいて一つでも歯車を壊してみせるから。」

混乱したままの二人の耳元でカルサは囁いた。

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