御劔 光の風3
だから絶対に口にしないと心に決めていた。

だからこそ尚更恋しさが増していく。

好きな人の名前を呼べない、そんな事がこんなに辛いなんて思いもしなかった。

ここに来た事が間違いだったと考えてしまいそうになる程に心が悲鳴を上げているのだ。

しかしその度に思い出すカルサの言葉がリュナの弱さを戒める。

「中途半端な気持ちで戦場に来るな。」

彼はいつも戦っていた。彼はいつも回りを見ていた。その中で常により現状をいいものにしようと懸命に働き続けているのだ。

「…ここは戦場。」

再確認がリュナの気持ちを前に向ける。

戦う為に今ここにいる、自分は突破口にならなくてはいけない。

「大丈夫、私はもっと強くなれる。」

寂しがっている場合ではないと懸命に己を奮い立たせるのだ。

魔族の血がより風の力を自由に操る手助けをしてくれるのならこの世界では更にその力を発揮できるはず。相手が同じ条件でも自分にはまだ伸びしろがある筈だ。

耳元で飾りが揺れる。

大丈夫だ、カルサが傍に居てくれると瞼を開いた。

「社、出てきて。」

リュナの言葉に反応して彼女の身体から剥がれるようにして風が生まれる。風はやがてリュナの目の前に集まって社の姿へと変わっていった。

「心配かけてごめんね。もう大丈夫、前に進める。だから力を貸して欲しいの。」

真っ直ぐ見つめるリュナの瞳の輝きはやはり怪しい光を帯びている。

それでも彼女の気持ちの輝きは少しも変わっていなかった、心はいつもカルサに向かっているのだ。

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