御劔 光の風3
「お姫様ね…そんなに偉い人ということかしら…あの人。」

ロワーヌの姿を思い浮かべたが今から成す目的に必要ないものだと切り捨てリュナはいよいよ部屋の外に繋がる扉の前に立った。

この向こうからは何が起こるか分からない。

殺気を出さないように、しかし怯えていては付け込まれるだけだと平常心を自分に念じる。

深呼吸を繰り返して扉を押せば軋む様な音が響いた。

「行こう。」

自分に声をかけるとリュナはそのまま初めて自ら部屋の外へと足を進めていく。

背中に受けた扉の閉まる音が何の気配もない廊下に響いた。

少し肌寒く感じたが、それを振り切るようにリュナは光が少しでもある方に歩きだす。

窓から入る光は寝室と変わらない。外の空気を吸いたくて、とにかくリュナは外を目指すことにした。

与えられた部屋に案内される時は目が慣れていなかったせいもあって城の造りがよく分からなかったが、どちらかと言えば総本山よりもシードゥルサの方に雰囲気が似ている気がする。

バルコニーに出た時とは違い、城の中ではあまり人の気配も魔物の気配も感じられなかった。

誰も居ない訳ではないだろうが、迫り来るような、見られているような感じはしない。

しばらく歩くと見張り台のような場所があるのが見えた。

城外は勿論だが城と城壁の間を監視するための見張り台があるのも見えてリュナは思わず立ち止まって見入る。

あの辺りは風を感じることも出来るし月の光も気持ちいいほど浴びることが出来るだろう。

逃げる場所も戦う場所も十分にある。

目標を定めたリュナはそこを目指して城内を歩き続けた。不思議とどう進めば辿り着けるか分かっているようで迷うことはなさそうだ。

難なく辿り着いた見張り台には人影が全くなかった。

「見張り台の筈…よね。」

本来の役目を果たしていないこの建物に疑問を感じるが、年期が入っているところをみると時代が変わったのだろうかとさえ思ってしまう。

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