御劔 光の風3
かつてあった争いが今では治まっているのかもしれないとリュナは優しく塀に触れた。

顔を上げれば求めていた月が待っている。

空を仰ぎ、まるで身体に光を染み込ませるように目を閉じた。

それだけでは恋しい気持ちが満たされないと分かっていても、そうせずにはいられなかったのだ。

「ここは戦場だ。」

自分にさえ聞こえないほどの小さな声で囁く。

満たされる筈がない、戦いで得られるものなんて僅かにしかないのだ。

負ければ全てを失う、勝ったとして失ったものの方が多いに違いない。

だからこそ強い心と力が欲しい。

戦う為に、戦い続ける為に勇気と力が欲しい。

何があってもこの風の力と自身の命を守りきらなければいけないのだ。

来たる日その時まで。

「やっぱり目立つな。」

「…ッ誰!?」

突然現れた声にリュナは強く反応した。

反射的に声のする方に身体を向けてその標的を目に焼き付ける。

「淡い色の髪に服、真っ暗闇のこの世界じゃあ嫌でも目立つと思うぜ?」

少し距離をおいた場所から話しかけてきたのは青年だった。

ついさっきまで全く気配がしなかったのに一体いつからそこに居たのだろうか。

彼の言葉を正論づける様に黒の服を身に纏い、その髪は深みのある赤色をしていた。

その身なりを見ればそれなりの位の持ち主だという事は明白だ。それに彼から感じる力の気配でその強さも読み取ることが出来る。

強い。

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