御劔 光の風3
色々頭の中で整理つかないことが多いが、それらを後回しにするほど強い衝撃を与える言葉を永はさらりと発した事に気付いてリュナは口元に力を入れた。

無視することは出来ない音に不快感を抱いたリュナは永の握手に応えることが出来ない。

「その名は嫌いだってさ。」

「え?」

止まったままのリュナを見たラバが付け足すように答えた。

突然の情報に永は思わず聞き返すが、ラバに向けた視線を再びリュナに戻して首を傾げる。

リュナはラバを睨むわけでもなく、何かを導きだすように永の方を真っすぐ見ていた。

その目の輝きにくもりはない。

「じゃあ、風神。そう呼んでもいい?」

予想外の言葉にリュナの目が大きく開いた。

「あなた、とかじゃ呼びにくいの。風神なんでしょ?だからそう呼んでもいい?」

理屈とかじゃなく感覚で確信に近いものを得た気分だ。

間違いない、今の彼女と貴未が重なっているように見えたリュナの感覚にきっと間違いはない。

やっぱりそうだ、目の前にいるこの女性は貴未が求めていた永なのだ。

永の笑顔を受けてリュナは泣きそうになった。

ここにいる、貴未に永はここにいると今すぐ伝えたい。

「…構わないわ。」

昂る気持ちを抑えて短く答えたリュナに永は答えを貰えたと嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ風神、そろそろ部屋に戻らない?いい加減何か食べないと倒れちゃう。」

連れていこうと改めて差し出された永の手を今度は首を横に振って断った。

「暫くここに。」

落ち着いた低い声でそう告げるとリュナは視線を景色の方に移す。

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