君の『好き』【完】
「お待たせ」
11月に入った。
放課後、教室でひとり海くんを待っていたら、
ガラガラっとドアが開いて、海くんが入ってきた。
「帰ろ」
海くんの可愛い笑顔を見ると、
いつも私も思わず笑顔になってしまう。
「うん」
海くんと一緒にいるようになってから約二ヶ月。
最初は、
海くんがそばにいてくれる事に、
申し訳ない気持ちになっていたけど、
毎日海くんの優しさに触れて、
毎日毎日、海くんの笑顔を見て、
だんだんと、一緒にいることが楽しくて、癒されて……
今では、
海くんのいない生活が考えられないぐらい、
私は海くんのそばにいたいと感じるようになっていた。
リュックを背負い、ドアのところにいる海くんに近づくと、
海くんは教室の電気を消した。
グレーのブレザー、紺色のネクタイを緩めて、
剣道でくしゃくしゃになった髪が、
いつもかわいく見える。
「ごめんな、いつも遅くまで待たせて」
一緒に階段を下りると、海くんが謝ってきた。
「いいの、私が......待っていたいんだから」
海くんは紺色チェックのズボンに両手を入れながら、
階段の下から私を見上げて、あははっと笑ってまた前を向いた。
玄関を出ると、
もう外は真っ暗で少し肌寒かった。
バスケ部は剣道部よりも早く終わるから、
吉井くんに帰り会うことはない。
それに、吉井くんは部活に行かない日が増えた。
「ほら、また渡瀬くん宇崎さんと一緒にいる」
いつも帰り、部活帰りの女子たち何人かが、
ちらちらと私たちを見る。
「海くんってモテるね」
「ん?俺?」
隣を歩く海くんに言うと、海くんは首を傾げた。
海くんと一緒にいるようになってから、もう何人も聞かれた。
『渡瀬くんと付き合ってるの?』
その度に『付き合ってない』と答えると、みんなホッとして帰って行く。
「私、海くんを好きな子たちに恨まれていないかな......」
帰り道、隣から海くんが私の顔を覗き込んできた。
「そんなことさせない」
えっ.......
「言ったじゃん、俺。
絶対に宇崎を泣かせるようなことはしないって。
だから、何にも考えないで俺のそばにいな」