君の『好き』【完】
海くんはまた前を向いて、
口元に手の甲をあてた。
また、照れてるのかな......
海くんは照れると、手の甲を口元にあてる。
それがかわいくて......
隣から海くんの横顔を見て思った。
この人と一緒にいると、いつも穏やかな気持ちになる。
安心していられる。
ずっと笑っていられる......
電車に乗って、扉すぐの所に私が立つと、
海くんは私の前に立って手摺りに掴まった。
手摺りを掴んだら、ブレザーから右手首が見えて、
その手首が赤く内出血しているのが見えた。
思わず手摺りを掴んでいる手を触ると、
海くんは、パッと手摺りから手を離して、
大きな瞳をまん丸にして驚いた。
「えっ、何?」
そう言って、海くんの白い肌が真っ赤になった。
「あ......ごめん。触っちゃって.......
手首、大丈夫?痛い?」
「手首?」
海くんは首を傾げながら自分の手首を見つめた。
「あぁ、気付かなかった。
こんなの大丈夫だよ。しょっちゅうだから」
海くんは右手を下ろして、左手で反対側の手摺りを掴んだ。
電車の揺れに合わせて、少し揺れている海くんの右手。
海くんは私に触れてくることはない。
私も海くんに触れたいと思ったことがなかった。
でも今、
海くんに触れたい、
その手を繋ぎたいって、思っている。