君の『好き』【完】
吉井くんは、その場に立ち止まって、
その周りを生徒たちが追い抜いていく。
呆然と突っ立っている吉井くんが、どんどん小さくなっていく。
海くんも振り向いて、
その時じっと後ろを.......吉井くんを見ていたことに気づいた。
はっとして、前を向きなおすと、
海くんが繋いだ手を離した。
「ごめん俺.......調子乗った。ほんとごめん」
海くんはまた両手をズボンのポケットに入れて、
ははっと私に笑って前を向いた。
海くん......
そんな風に思わせてしまったなんて.......
離された手が、ひんやりと冷たくなっていく......
私今 何してた
どうして吉井くんをじっと見てしまったの
海くんのことだけを考えるって約束したのに
私 何してんの
こんなに海くんが大切なのに......
「海くん違うの、私......」
「わかってるよ......わかってる。
しかたないよ、宇崎」
海くんはまた私にかわいい笑顔を見せると、前を向いた。
少し俯いて優しく微笑んでいる海くんの横顔が悲しげに見えて、
頭で考えるよりも先に手が勝手に動いて、
ぎゅっと海くんの腕をブレザーの上から掴んだ。
「手を繋ぎたい」
どうしても、触れたいと思った。
海くんは少しびっくりしながら私の顔を見た。
ふわふわと外ハネしている栗色の髪。
前髪の隙間から見える、大きな瞳。
白く綺麗な頬を少し赤く染めて、
ポケットからゆっくりと手を出した。
その上にそっと手を乗せると、ぎゅっとしてくれて、
ぱっと下を向いて前髪を揺らすと、
また前を向いて、手の甲を口元にあてた。
私は海くんを大切にする。
もう、振り向かない……
そう心に誓いながら、繋いだ手をぎゅっとした。