君の『好き』【完】
教室に入り、自分の席に座ると、
吉井くんが入ってきて、隣に座った。
朝のことは何もなかったかのように、
何も変わらない、いつもの挨拶だけの吉井くんだった。
球技大会が始まり、クラス対抗のトーナメント制で、
私たち4組女子は、もちろん一回戦負け。
「超怖かった、3組の女子」
体育館から校舎に続く渡り廊下、
隣の沙希にため息をついた。
「私が下手くそなこと知ってて、超狙って打ってくるんだもん」
私がまた深いため息をつくと、沙希はあはははっと大爆笑した。
「3組女子は、渡瀬くんといつもいる鈴が憎いんだよ、あははっ」
「えぇ.....それは違うと思うけどな......」
沙希はジャージのズボンのポケットからプリントを出した。
「男子、勝ってるかな......
外コートだから、とりあえず校庭見に行こうか」
「うん」
沙希と校舎に入り、下駄箱から外に出て校庭に向かうと、
男子たちがバスケをしているのが見えてきた。
「あぁ、あれうちのクラスじゃん?」
少し走った沙希のあとを追いかけて校庭に入ると、
2つコートができていて、その周りをたくさんの生徒たちが囲んで応援している。
沙希が私の腕を引っ張ってその中に入り、
一番前、コート際に立たされた。
「一応、勝っているみたいだね」
「うん」
海くんは.....海くんはどこにいるのかな.....
違うコートに目をやっても海くんの居場所がわからなかった。
体育館かな......
「吉井、超手抜いてんな」
ふと後ろの男子が吉井くんの名前を出したから、びくっとしてしまった。
手を抜いている......
コートの中を見ると、吉井くんが少し不機嫌そうに立っていて、
確かにあまり動いていない。
時々ボールを持っては、すぐにパスしてしまう。
「まぁ、バスケ部に本気出されてもなんだしね」
また違う男子の声。
「あいつ、最近部活来ねーんだよ」
バスケ部の人かな......
「なんか、他校に彼女ができたみたいでさ」
「あぁ、知ってる、南高の女子だろ?
俺、南高に同中の奴がいて、
そいつから聞いたんだけど、
吉井って双子で、その双子の兄貴が南高だったんだけど、
夏休みに事故で死んだんだって」