君の『好き』【完】
「吉井くん......」
試合はうちのクラスが2点差で勝って、
試合が終わると、吉井くんはジャージの砂を払いながら、
校舎の裏へと歩いて行ってしまった。
「ちょっと、海くんのところに行ってくるね」
「あぁ、そっか。わかった」
沙希にそう言うと、私は海くんの元に走った。
「海くん」
海くんは開いた膝に両手をついて、上目で私を見上げた。
「ん?」
海くんは少し息が上がっていて、悔しそうな表情だった。
「バスケもできるんだね、海くん。
海くんは、なんでもできちゃうね」
海くんは下を向いて、呼吸を整えると、
膝から手を離して、顔を上げた。
「俺、吉井のとこに行ってくる」
「えっ......」
「怪我させたかもしんないから、謝ってくるよ」
「謝るって......あれはしかたないよ、海くんは悪くないよ」
海くんは、優しく目を細めた。
「謝ってくるよ」
そう言って、校舎の裏へ海くんも歩いて行ってしまった。
そんな......あれは海くんが転ばせたんじゃないよ.......
吉井くんがぶつかってきたのに.......
私も行って、海くんのフォローをしてあげようかな。
でも、余計なお世話かな.......
しばらく考えて、やっぱり私も行こうと、
校舎の裏へと歩きだした。
校舎の横から出ると、海くんの声がして思わず立ち止まった。
「怪我、大丈夫か?」
少し離れたところに海くんの後ろ姿が見えて、
吉井くんはその先の水道で肘を洗っていた。
私は校舎脇にある木の影から2人を見つめた。
「あぁ、こんなの別に大丈夫だよ」
「ごめん、俺のせいだよな......」
「渡瀬のせいじゃない、俺が勝手にコケただけだから」
吉井くんは腕を振って海くんの前に立った。
それから少し沈黙があって、
木の影から出ていこうとしたら、
海くんが意外な言葉を言い出した。
「吉井は今、幸せか?」