君の『好き』【完】
海くん.......
「はぁ?なんだよ、突然」
吉井くんは首を傾げた。
「答えろよ、正直に」
海くんの声は、いつもよりも低い声だった。
「あぁ、幸せだよ」
吉井くんは軽く答えた。
「お前それ、死んだ兄ちゃんにも言えるか?」
吉井くんは、はっとした顔で固まった。
「言えんのかよ」
吉井くんは、そのまま黙ってしまった。
「兄ちゃんの代わりに、吉井が兄ちゃんの彼女と付き合ってるって本当なのか?
なぁ、お前そんなことしてんのか?」
「だったら、なんだよ!」
吉井くんは、ふっと笑って下を向いた。
「彼女のことが好きで付き合ってんじゃねーのか。
お前、宇崎を振ってそんなことしてんのか......」
吉井くんは、また黙ってしまった。
しばらくまた沈黙が続いて、
海くんが口を開いた。
「俺さ、中2の弟がいるんだ」
海くんは突然、宙くんの話を吉井くんにし始めた。
「弟にはもう彼女がいるし、身長も俺より5センチ高いし......
性格も全然違う。
でも、やっぱ兄弟って、根本的なとこは似てんだと思うんだよ。
吉井は?
吉井はどう思う」
吉井くんは黙って俯いてしまった。
「俺がさ、もし死んで、
弟が俺の代わりになって、自分の人生を捨てて、
俺の人生を代わりに歩き出したら、俺........
お前、何やってんだよって、
すっげームカつくし、すっげー頭くる。
お前はお前の人生歩けよって、
お前は、俺の分まで幸せになれよって、
俺だったらそう思う。
吉井はどう思う。
もし、お前が死んで、兄ちゃんの方が生きてて、
兄ちゃんがお前とおんなじことしたら、お前どう思う」
吉井くんはずっと俯いたままだった。
「吉井......お前、間違ってるぞ。
お前のしていることは、間違ってんだぞ!
兄ちゃんは、そんなこと望んでんのか?
お前の兄ちゃんだぞ!!
そんなこと弟にさせるような兄ちゃんだったのかよ!!」
海くん.......
「俺には、そうするしかなかったんだ。
もう、
自分でいる事に疲れたんだよ……」
吉井くんが俯きながら苦しそうに言った。
「疲れた……?
ふざけんな!!
流されてんじゃねぇーよ!
お前は、お前だろ!!
自分の気持ちを強く持てよ!!
そのことで、どんだけ宇崎が泣いたと思ってんだよ.......
自分に正直に生きろよ!!
吉井は.......
お前は、宇崎が好きなんだろ!!」