君の『好き』【完】
●第4章●
深い
海くんはそのまま振り返ることなく、
家に入っていってしまった。
仕方なく私も家の中に入り、リビングのドアを開けると、
お兄ちゃんがテーブルの上でパソコンをいじっていた。
「おう、鈴おかえり」
「ただいま」
「ぁあ?元気ないじゃん、てか泣いてんじゃん。どした?」
お兄ちゃんはパソコンを畳んで、座ったまま私の顔を覗き込んだ。
「もう!泣いてないし。お母さんは?」
私はリュックをソファーに下ろし、カウンターキッチンの中に入って手を洗った。
「母ちゃんなら、ほら近所のチビの家にりんごおすそわけだぁって持ってって.....
そういえば、帰ってこねぇーなぁ。
話し込んでんじゃね?」
「近所のちび?」
カウンター越しに私が首を傾げると、お兄ちゃんも首を傾げた。
「鈴、最近一緒にいんじゃん。お前ら付き合ってんの?」
最近一緒.....ちび.......
「あ、もしかして海くんのこと?」
「そうそう、海のこと」
「もう!海くんはちびじゃないよ!」
私は冷蔵庫からお茶を出してコップに注いだ。
「あははっ、背伸びたのかよ!
ていうか、あいつは?ほら前交番前で待ち合わせした、
バスケ部」
「あぁ......」
私はコップを持ってお兄ちゃんの前に座った。
「吉井くんは......振られた。
振られたあと、海くんがずっとそばにいてくれて、
すごく優しくしてくれて、
胸がじーんと温かくなって......
海くんのそばにずっといたいって思った。
吉井くんを忘れて、海くんだけを考えたい、大切にしたい、
離したくないって思った。
でも、最近になって吉井くんに、
本当はずっと好きだったって、付き合おうって言われて.....」
「ちょ、ちょっと待て。
おい、ちょっとバスケ部いい加減じゃね?」