君の『好き』【完】
お兄ちゃんは眉間にしわを寄せてマグカップを持った。
「吉井くんにも、いろいろあって.......」
「んで?鈴はそのバスケ部と付き合うっての?」
私は思いっきり首を振った。
「わかんない。私、自分の気持ちがよくわかんない。
お兄ちゃんはさ、どうやって今まで好きになった人を消して、
新しい人を好きなったの?」
お兄ちゃんは少しむせて、マグカップを置いた。
「はぁ?消して?そんな消えるわけねーじゃん。
本気で好きになった子は消えねぇーよ」
「え?じゃなに?二股?」
「んなわけねーだろ。しまっとくんだよ。
俺の場合は、思い出としてしまっとく。
でも好きって気持ちはしまわない。
その気持ちは過去に置いてくる」
思い出として、しまう。
気持ちは過去に置いてくる。
「鈴は、海と一緒にいたいと思ってんだろ?
バスケ部とじゃなくて、海のそばにいたいんだろ?」
「うん。
でも、海くんに罪悪感でそばにいられるのが辛いって言われて……」
「罪悪感?なんだそれ?
そんなもん持ってんなら、
バスケ部よりも海のそばにいたいと思わねぇだろ」
「そっか……そうだよね……」
「バスケ部よりも海のそばにいたい。
バスケ部よりも、海のことを大切にしたい。
そう、思ってんだろ?」
私は大きく頷いた。
「じゃぁ、ちゃんとバスケ部への気持ちは過去に置いてきてんじゃん」
「でも、吉井くんを好きって思った時の気持ちと、
なんか......海くんへの気持ちが全然違うの」
お兄ちゃんは「はぁ?」と首を傾げた。
「恋をすると、胸がキュンキュンするとか、ドキドキするとか、
そういう感じだって思ってた。
吉井くんの時もそう思った。
でも、海くんは違う。
手を繋ぐと胸がじーんとして、一緒にいると心が温かくなって……
だから、なんか【好き】って気持ちと違う気がして……」
あはははっとお兄ちゃんはお腹を抱えて笑い出した。
「鈴さ、お前.......海のこと、超好きなんじゃん」