君の『好き』【完】
吉井くんに言われて、なぜか涙が溢れ出した。
「なんで泣くんだよ、バカだな」
吉井くんは体ごとこっちを向いて、私の頭を大きな手で優しく撫でた。
「なんでだろう.......」
両手で目をこすってもこすっても、どんどん涙が出てきて、
なかなか収まらなくて困った。
「渡瀬が好きなんだろ?」
「えっ」
両手から顔を出すと、吉井くんが私の顔を覗き込んで首を傾げた。
「好き.....なんだろ?」
「う、うん.....」
たぶん、好き。
この気持ちは、ちゃんと海くんが好き。
心の中で何度も言い聞かせた。
吉井くんは、私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「なんだよ、その微妙な答え。そんなんじゃ渡瀬にも悪いし、
俺だって.....」
俺だって......?
「とにかく、渡瀬が好きって言えよ」
吉井くんがふっと真剣な表情になった。
「好き......」
すると、吉井くんは噴き出して笑って、
私の前髪をくしゃくしゃにした。
「よし、良い子だ。それでいい」
あはははっと笑って、吉井くんは前を向いてしまった。
くしゃくしゃになった前髪を指で引っ張って、ふと視線を感じて後ろのドアに目をやると、
廊下に海くんがいてこっちを向いているのが見えた。