君の『好き』【完】
片手で吉井くんを抱きしめている状態のまま顔を上げると、
吉井くんが私を真剣な眼差しで見つめていた。
「大......丈夫?」
私がそう言うと、吉井くんが片手でぐっと私の頭を自分の胸に引き寄せたから、
私は吉井くんの胸の中に抱きしめられてしまった。
「諦めなきゃいけないってこと、ちゃんとわかってるから。
わかってる。
わかってるけど.......ごめん。
もう少し、時間かかりそうだ.....俺」
ぎゅっと抱きしめてきた吉井くんの声が胸から響いてきて、
私の肩に手を置くと、下を向いたままそっと離れた。
吉井くんが倒れた松葉杖を拾おうとしたから、私が取って吉井くんに渡すと、
吉井くんが顔を上げた。
「じゃあ俺、病院行くな」
吉井くんの顔を見上げていたら、吉井くんがふと目線をずらしてハッとした顔をした。
「渡瀬.......」
えっ。
バッと勢いよく振り向くと、東口の方に制服姿で防具袋と竹刀袋を肩にかけている海くんが、
呆然と立ち尽くしていた。