君の『好き』【完】





「海くん......」



私はすぐに海くんの元に駆け寄った。




「海くん、違う。


吉井くんとは偶然会って、松葉杖が滑って.......」


「わかってる」



海くんは防具袋を肩に掛け直して、優しく微笑んだ。



「俺は宇崎を......」





そこに吉井くんが松葉杖をついて近づいてきた。





「渡瀬、俺.......まだ鈴が好きだ。




ごめん」





吉井くんは松葉杖を大きく前に出して、東口の方へと歩いて行った。



吉井くんの言葉に、胸が痛んだ。



好きだと言われて辛くなるのは、どうしてだろう。



吉井くんが車にはねられた時の気持ち


私の顔が浮かんだと言われた時の気持ち


まだ好きだと言われた時の、この気持ちは.......



私、もしかして、揺れている.......



「俺は宇崎を信じる」




海くんはきっぱりそう言い切って、改札の方へと歩き出した。



自分の気持ちが、揺れ出している。



だめだよ。私は海くんと付き合っている。



私は海くんの彼女なんだ。



吉井くんのことはもう過去のこと。



揺れちゃいけない。



絶対に揺れちゃいけない。



改札を通り抜けた海くんに向かって、



走り出した。










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